モンハンブログ 週末の笛吹き

主にMH3GとMH4、MH4Gそしてモンスターハンタークロスのプレイ日記を書いていきたいと思います。現在は「ロキ」という名前でオンラインに出没中。モンハン以外の事を書くブログ「ロキの試験的駄文」も始めました。

モンハン小説『週末の笛吹き』 第六話 その6 新しい未来へ  

 雪原の真ん中を、一台のモトラド(注・二輪車。空は飛ばないものを指す)が走っていた。
 乗っているのは一匹の赤毛の猫。背中に大きな旅行かばんを背負い、カブトのようなメットを被っている。
ネコとモトラド1
 どことなく楽しげな調子で、モトラドがロキに聞いた。
「さてロキ、動画作成も一段落ついたね。次はどこに行くんだい?」
「そうだねモンキー。とりあえず、獰猛ジョーを倒しに行こうかと思うんだ」
「なるほどなるほど。じゃあ夜の古代林に向かうよ」


ネコとモトラド2
 ロキが古代林に行ってから、しばらく時間がたちました。
「やあロキ、首尾はどうだい?」
 迎えに来たモンキーが、どこか楽しげな調子で聞きます。
「……うん、とりあえず一旦、家に戻ろうと思うんだ……」
「勝てなかったんだね?」
「まあ……ね……」
「なるほどなるほど。だけどねロキ。ボクは思うんだ。別にすぐ勝てなくてもいい。何回も挑戦していれば、きっといつか勝てる日が来るさ。去年の今頃もそうだったじゃないか。それよりも、最近動画作成界に入り浸って、家に戻っていなかったんだろう?」
「そうだな、今月は一度も帰っていないや」
「ボクはね、思うんだロキ。ボクは君をどこにでも連れていけるけど、でも家路こそがきっと一番素敵な旅なんだ」




モンキーに見送られて家の前まで来たロキ。
VOICEROID三人娘を置いたまま留守にしていたこともあり、少し緊張しながらドアを開ける。
その瞬間。
内側からドアが勢い良く開けられ、ロキは弾き飛ばされた。

ロキを小脇に抱えて走りだす結月ゆかり
 尻もちを付いたロキと、ドアを開けた結月ゆかりの目があった。
 次の瞬間、ゆかりはロキを小脇に抱え、家の中に走りこんでいった。
「マキさん! ずん子さん! 帰って……! ロキさんが帰ってきまイた!」


「よかった~。もう! 本当に心配したんですよ!」
「なにはともあれ、一安心ですね」
 ロキを掴んで離さないゆかりと、ホッとした笑顔の東北ずん子。
 しかし、ただ一人、弦巻マキは渋い表情を浮かべていた。
「おかえり」
「……ただいま、戻りました。その……すみません……」
「動画作成界に入り浸っていたんだってね?」
「ええ……まあ……」
「それが悪いとは言わないよ。でも、長く留守にするのであれば、一言いっておいてほしかったな」
「すみません」
「マキさん……」
「せ……せっかく帰ってきたんですから、その……」
「いや、怒っているわけじゃないんだ。ただ、礼儀としてね。それより!」
「そ! そうです! 今はともかく!」
「??」
「ヘイムダルさん達がお待ちなんです!」


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01.

 フェンリルとの決着を付けたその夜。
 伝令のためベースキャンプを回っていたエイルをカーラは全速力で追いかけ、ほとんど最速のタイミングでテュールのもとに連れ戻した。

 医療の心得があるエイルは、フェンリルの放った散弾によって傷ついたテュールを診て、ヘイムダルたちに言った。
 テュールの右腕は、日常生活にそこまで支障が出るほどではないかもしれないが、以前のような力を出すことも、細かい作業をすることも難しくなるだろう、と。

 エイルを手伝いながらヘイムダルたちは森で夜を明かし、テュールが安定してから村へと戻り、警戒態勢を解かせた。
 黒いリオレイア襲撃の恐怖に怯えていた村人たちは、それでやっと胸をなでおろしたのである。

 ギルドナイトの二人は、いつの間にか姿を消していた。

 数日後。まだ蒸し暑さが残る晩夏の昼前。
 ガルガリの滝の村のギルド事務所にて、ヘイムダルとユヅキはギルドから派遣される一隊を待っていた。

 テュールは現在マイホームで、エイルと、そして看護の志願をしてきたロキが付きっきりで診ている。さらにロキと共にフレイアも入り浸り、それまでテュールとはさほど仲が良いとは思えなかったカーラや、無口なソグンまでが頻繁に見舞いに来るようになった。

 アイルーたちの輪の中になんとなく入り込むことができず、マイホームで浮いてしまっていたヘイムダルは、今日は朝からギルド事務所にやって来ていた。
 しかし、ギルドから派遣される一団を迎え入れる準備や事務手続きはユヅキの仕事であり、ヘイムダルに手伝える事はあまりない。
 結局、忙しく動き回るユヅキをチラチラと見ながら、ソファの上で大きな身体を少しだけ縮こませて出番を待つしか無かった。

 今日来るのは、王立書士隊を中心としたモンスターの生態を研究しているチームである。
 以前のブラックウィドウと同じく、特殊な個体であった黒いリオレイアの遺骸を現地で解体しながら研究サンプルを取るということだった。



02.
 昼近くになってギルドの生態研究部隊が到着すると、ヘイムダルはにわかに張り切りだした。
 今回、現場までの先導と護衛は自分が行う。
 ブラックウィドウのときにも来ていた若いハンターと相談しながら、ヘイムダルは護衛としての行動計画を練り、昼食を取ってからの出発となった。
 若いハンターはユヅキの顔を見ると破顔し、何かと粉をかけていたが、ユヅキの方は事務的そのものの対応で、若いハンターは少しうなだれてしまっていた。

 実際に喋ってみると、自分のことをヘタレだと自虐するこのハンターはなかなか気のいい奴で、大剣の腕も立った。
 前回来た時には、人に懐かない黒猫のソグンがそれなりに協力的だったとも報告を受けている。
 ユヅキももう少し優しくしてやればいいのに、と、ヘイムダルは思ったが、しかしユヅキの身持ちの固さに、父親が娘に期待するような安心感もまた感じた。

 ブラックウィドウと戦った森の奥の洞窟に比べて、黒いリオレイアの遺骸はベースキャンプに近い場所にある。
 先導にしても護衛にしても、ヘイムダルにとっては自らの仕事場の中で行うようなものなので特に問題は無かった。
 生態研究部隊の人数は多いものの、チーム単位での集団行動に慣れている者ばかりのため統率はしやすく、ヘイムダルは軍隊時代以来久しぶりの団体行動を懐かしく感じていた。

 研究チームは現地に最も近い第三ベースキャンプを拠点として、数日に渡りキャンプを張って、黒いリオレイアの死骸を解体しながら記録していく。
 その間ヘイムダルも付きっきりになるので、村周辺の見回りはネコたちに任せることになる。
 11匹のアイルーたちには普段よりも忙しい日々となるが、ヘイムダルにとっては比較的楽な仕事となった。

 研究キャンプの最終日。
 ここ数日ですっかり仲良くなった研究チームの面々を引き連れ、ヘイムダルは事務所へと戻った。

 王立書士隊員である研究チームのリーダーから、ギルドからの報酬として黒いリオレイアの素材を渡すと言われ、リストを見せられた。
 リストにない素材であっても、可能な限り融通するよう通達されているとも伝えられ、ヘイムダルはヘルあたりが気を使ったのだろうかと考えた。

 もちろん、貰えるものは貰っておくのがハンターという人種である。
 ヘイムダルは、かねてより欲しいと考えていた「火炎袋」を指定した。
 リオス種が火球を生成する時に使う生体器官であり、取扱は難しいが「とある使い方」を考えていたのだ。
 黒いリオレイアの火炎袋は通常個体のものよりも大きく、それはヘイムダルに取って願ったり叶ったりな事だった。

 普通よりも多い素材に、更に追加した火炎袋、そしてギルドからは多額の報奨金まで送られた。
 おそらくはギルドナイトやフェンリルの処分に関する口止め料も入っているのだろう。

 フェンリルの姿も、金のリオレイアの死骸も、研究チームが到着した時にはその痕跡すら無かった。

 フェンリルとの決着やヒュミルとの秘密の再会、テュールの怪我や失語症の回復など様々な因縁のあった事件だったが、これらの報酬を受け取ることで全てが完了したのである。
 少し疲れたな。
 ヘイムダルはそう思った。

 研究チームの帰り際。
 腕は立つくせにヘタレであると自虐する若いハンターと別れを惜しんでいるとき、チームリーダーとユヅキの会話が聞くともなしに耳に入った。
 黒いリオレイアの生態に関しての所見を、リーダーがユヅキに伝えているのだが、その際、リーダーは黒いリオレイアのことを「ブラックナイト」と呼称していた。
 ユヅキも当たり前のようにそれを受け入れていて、ギルド職員たちのネーミングセンスにかねてから疑問を持っていたヘイムダルは、その疑念をさらに濃いものとしたのだった。



03. 
 研究チームが帰ってからしばらく経って。
 ギルドに加工を依頼していた物品などが事務所に届いた。

 中には「ブラックナイト研究結果」などの書類もあり、ヘイムダルからすれば紙をパラパラ捲っているだけとしか思えない読破速度で目を通していたユヅキが、ヘイムダルに内容を説明した。

 観察で解ったことや同様の個体の目撃例、その他の研究と照合した結果、このブラックナイトは生まれつきの身体異常で卵巣を持たない個体だったことが判明しました、と、ユヅキは言った。
 記録は少ないが、以前にも同様の個体が発見されたことがあるらしい。
 出産をしないせいか、卵を生むための栄養が全て身体の成長に回るようで、通常個体に比べて大きく育ち、危険度が増すのだそうだ。
 生態もかなり特殊で、通常個体が番いと自分たちの卵を護る程度の集団性しか持たないのに対し、「ブラックナイト」はその生息域で他の個体の卵を護るような役目をしていると推測される、と結論付けられていた。

 ユヅキは「なるほど」と唸り、
「だから“宵闇の守護竜”ブラックナイトなんですね」
 と、心底感心したように言った。

 なにやら更に理解しがたい名称になっているが、ヘイムダルは目を逸らして頷いた。

 今回届いたのは書類だけではない。
 ブラックナイトの鱗や甲殻を研究チームに預けて作成を依頼していた装備や、火炎袋を利用して作られた「とある装置」も一緒に届けられていた。

 ヘイムダルは、先日治療を終えてエイルから自由に出歩く許可が出たテュールを呼び寄せた。
 ちょうどそのまわりに居たロキやソグン、カーラ、そしてアイルーの一団に溶け込んでいる村の子供フレイアも一緒にギルド事務所にやってきた。
 テュールは、その背負っていたモノを降ろし、どもりは残るが喋ることが出来るようになったこともあり、以前ほとんど私的な付き合いをしていなかった現地のアイルーたちと交流を持ち始めている。
 他人との交流はまだかなりぎこちないようだが、それでも熱心に看病したり見舞いに来ていたロキ、ソグン、カーラ、エイルとの仲が良いようだ。
 ヘイムダルは、それをとても喜ばしいことだと感じている。

 呼ばれて来たテュールに、ヘイムダルは快気祝いだ、受け取れ、と、装備の入った箱を渡した。
 中にあるのは、ブラックナイトの素材を使用して作られたレイアネコ装備一式である。
 緑味の強い通常装備に比べ、ブラックナイトの素材を使用したそれはほぼ黒一色。
 ヒュミルとの別れ以来、白く変色していたテュールの毛色は、しかし言葉を取り戻したあの夜を過ぎて、生え際から生来の毛色だった艶のある黒色が戻ってきている。
 今は白と黒のまだらだが、やがて全身が黒い毛並みに覆われることだろう。
 ガルルガ仮面としての立場を崩さずにヒュミルは去っていったが、彼が渡した漆黒のハンターナイフと共に、黒いレイアネコ装備はテュールの毛並みに映えるに違いない。



04.
 少し照れながら黒いレイアネコ装備を装着したテュールの姿に、ロキとソグンは言葉を失ったかのように見とれ、白い巻毛のカーラもヒュウと口笛を吹いた。
「すっごいキレイ! かっこいい!」
 フレイアはやや興奮気味に讃え、ユヅキも、
「絵になりますね! 似合うよテュール!」
 と、褒めた。

 ヘイムダルもそう感じたが、しかし単純に思ったことを口にした。
「確かによく似合っているが、あれだな、腰装備がスカートみたいで、なんだか女の子のように見えるな」

 その瞬間。

 ロキが、ソグンが、カーラが。
 そしてフレイアとユヅキが。
 一斉にヘイムダルに視線を向けた。

 全員、表情に驚きの色がある。
 一体何だ? と、ヘイムダルが思った瞬間、ギルド事務所のドアがノックされ、入り口が開けられた。

 なんとも言えない雰囲気の中、入ってきたのは村人の一人、林業と大工を営むニョルズだった。
「お父さん!? どうしたの?」
 声を上げたのはフレイアである。
「ああ、フレイアもここに居たのか。ユヅキのお嬢に迷惑をかけないようにな。どうしたって……オレは、ヘイムダルさんに呼ばれて……」
「いや、いいところに来てくれた」
 ヘイムダルは、ギルドから送られてきた荷物から「とある装置」を取り出した。
 それは断熱性のあるレイアの素材で作られた箱で、中にはブラックナイトの大きな火炎袋が仕込まれている。箱の両端には管を繋げるための口が取り付けられており、そこからは弱くない熱気が吹き出していた。

「これなんだが……」
「おお、なるほど……」
 なにやら話が付いているらしい大人たち二人を覗き込み、フレイアが質問する。
「なんなの? これ」
「水を沸騰させる装置だ」
 ヘイムダルはそう答えた。
「これを使って、常時入ることが出来る風呂を作れないかと、この間ヘイムダルさんに相談されたんだが……」
 言いながら、ニョルズは熱の噴出口に軽く手をかざす。
「うん、熱量は充分以上だ。多分、なんとか出来るだろう」

「お風呂……ですか?」
「そうだ嬢ちゃん」
 ユヅキが首を傾げると、ヘイムダルは嬉しそうに言った。
「河から水を引いて、この装置に通すと、お湯になって出てくる。湯船への給水と排水さえできれば、いつでも温かい風呂に入り放題になる……以前から考えてはいたんだが……いやほら、テュールも怪我を負った。湯に浸かるのは身体を癒やすのにも効果的だろう」
「……そりゃ、湯治という言葉もあるくらいですから……」
 でも、テュールの事は後付の理由で、まず自分が入りたいんですよね? と、ユヅキは言葉にせずに思った。
「それじゃ俺は工事の打ち合わせをしてくる」
 そう言って、ヘイムダルはニュルズと連れ合い、いそいそと事務所を出ていった。



05.
「……信じられない……」
 最初に口を開いたのはフレイアだった。
「こんな美人なのに! ヘイムダルさんったら、あれ本気で言ってたの!?」
 フレイアは、小さい頃からアイルーたちと近しく過ごしているだけあり、その美醜の判断まで出来るようだ。
 そこまでの眼は持ち合わせていないが、しかしユヅキでも、アイルーの性別くらいは判断できる。
 信じられない、という言葉にはさすがに同感だ。

「ヘイムダルさんったら、テュールを男の子だと思ってたの!!??」

 フレイアの叫びに、首を傾げながらテュールは答えた。

「そ……そういえば……」
 失語症は克服したが、テュールの言葉はたどたどしい。
「へ……ヘイムダルさ……いや……隊長から雌扱いされた……記憶がない……ニャ。……でも……それはヘイムダルさんの……いや……隊長の……不器用な気の……使い方だと……思っていたニャ……」
 テュールの言葉に、感情の豊かなフレイアは思わず頭を抱え、天井を仰ぎ見る。
「うそー……。そんな事って……。信じられない」

「な……なんにしても……あの装置は……ありがた迷惑ニャ……熱い湯は嫌いニャ……」

 一連の流れを、腹を抱えながら笑って見ていたカーラが、呆然としているロキにこっそりと話しかけた。
「ヘイムダル隊長も、変なところで抜けているニャ……で、テュールに一目惚れしてオトモアイルーになると決めたお前はどう思うニャ?」
「!!」
 ロキは反射的にカーラの口を抑えると、まわりを見回しその言葉が誰にも聞かれていないことを確認する。
「……ニャ! ニャニを言っているニャ!」
 小声で言い返すと、カーラはニヤリと笑った。
「村人と険悪だったソグンに義理立てして、あれだけ人間と対立していたお前がニャ。まあ、対立ってもイタズラしまくってただけだったが。それが、新しく来た村付きハンターに“挨拶してくる”なんて息巻いてたくせに、戻ってきた時にはオトモアイルーだったニャ。テュールの色香に迷ったニャんて、ちょっと考えればわかるニャ」
「……う……うるさいニャ」
「おや? 否定しないのかニャ? かニャ?」
「何話してるの、ロキ? カーラ?」
 二人でこそこそしているロキとカーラに、ユヅキが声をかける。
「いや、テュールに関して思い出したことがあってニャ。それがもう、傑作の……」
 嬉々としてユヅキに内容を話そうとするカーラの口をロキが押さえる。
「な……何でも! 何でも無いニャ!」
 焦りながらカーラの腕を引っ張って、ロキは事務所を走り出ていってしまった。

 なんだありゃ?

 ユヅキは首を傾げてロキとカーラを見送ると、フレイアに装備をペタペタ触られているテュールの姿を見た。
 ちょっと困った顔をしながら、しかしテュールは笑っていた。

 本当に明るくなった。

 経緯はヘイムダルさんに全て聞いている。
 今回の事件を経て、テュールは新しい未来をはっきりと意識し、過去との決別を果たすことができたのだろう。
 願わくば、彼女の未来が明るいものであるように。
 彼女のこれまでの不幸という暗闇を打ち消すほどに、明るいものでありますように。
 事務所に残ったソグンとフレイアに囲まれているテュールを見ながら、ユヅキは心の底からそう思った。



06.
 遠く離れた土地で。
 その日、ギルドナイト二人は一仕事終わらせた後に、ガルガリの森での業務報告書を受け取った。
 フェンリルが“自白”した自身の犯行内容や、広域の卵密猟組織に関する情報が主なものだったが、ヘルはそれらにはただ眼を走らせるだけで記憶に留めることすらしなかった。

 ギルドの法と自分の意識の両方が「秩序を乱すもの」と認定する存在を始末するのがヘルの仕事である。
 捕らえた犯罪者がどうなろうが知ったことではない。それは自分の仕事の範囲外であり、興味も無い。

 しかし、今回の報告書に、ヘルは無視できないものを見つけていた。
 それはフェンリルの処遇などメインの報告書に付随して付けられていた、黒いリオレイア「宵闇の守護竜ブラックナイト」に関する報告書だった。

 仕事を終えた彼女は、愛する弟子と共に、隠れ家で心と身体の疲れを癒やしていた。
 隠れ家は各地に確保しており、それらはギルドすら存在を把握していない完全に私的な空間である。
 ヒュミルとの“一勝負”を終えて、彼女は裸のままベッドサイドに置いてあった紙束を手に取り、ヒュミルにちらつかせた。
「読んだか?」
「ええ。フェンリルが卵密猟組織の詳細を吐いたと。ギルド法務官もどんなやり方をしたのやら……」
「いや、そこじゃなく……」
「??」
「……まあいい」

 ブラックナイト討伐に関しては、本来のギルドナイトの仕事ではない。
 ただ、ヘルとヒュミルが手にかけたので、ついでで付けられてきたような報告書だ。

 私は……。
 ヘルはベッドに再び裸体を横たえながら、様々なことを思い出していた。

 私は、幼少時にギルドにて才能を見出され、ギルドナイトとして育てられた。

 子供の頃から人殺しの技を叩き込まれ、使命を果たしてきた。

 その際、妊娠や出産が職務の邪魔にならないよう、という理由で。
 薬学的に子宮を殺された。

 だから私は、命を孕むことが出来ない。
 命を繋いで行くという、重要な仕事を果たすことが出来ない。

 それはヒュミルにも言っていない。

 そんな私が、あの黒いリオレイアを殺したのか。

 心の中に、表現しようのない、黒雲のような澱が湧き出て、溜まっていくのがわかる。
 人を殺す度に、使命を果たす度に、少しづつ湧き出すこの黒い澱が、私の精神の全てを満たした時。
 さて、何が起こるのだろうか。

 まるで他人事のように考えながら、ヘルは紙束を暖炉の中に放り投げた。
 メラメラと燃え上がる炎を見つめ、書類が灰になると、ベッドに寝ているヒュミルをしがみつくように抱きしめた。

「もう一度じゃ」
 彼女は笑う。
 ヒュミルの男根を、剣だこでゴツゴツしている白く長い指でまさぐる。
 ソレが再び屹立するのを確かめると、彼女は上に乗って体内に迎え入れた。

 下半身の内側の「その最奥以外の部位」で、彼女は熱く力強いヒュミルの生命力を感じ取ろうと、必死で腰を動かす。
 そうしながら、ヘルは湧き出した黒い澱を忘れようとする。

 嬌声と笑い声が、喉の奥からほとばしり出た。

 不意に、ヒュミルが彼女の腰と背中に手を伸ばし、激しく上下していたヘルの身体を押さえた。
「なんじゃ? せっかく良いところじゃったのに……」
「ヘル様……」
「ん?」
「泣かないでください」
 ヒュミルの言葉に、ヘルは一瞬、息を呑んだ。
 だが、驚きを顔に出さないという訓練を積んできたヘルは、笑い顔のまま「泣いておらんじゃろう」と答える。

 ヒュミルは、そんなヘルを一層強く抱きしめ、その顔を引き寄せ、耳元で囁いた。
「自分が居ますから。泣かないで。安心して」
 ヘルの心に生まれた黒い澱は消えない。
 しかし、それとは別に、明るい晴れ晴れしい何かが、黒い澱とは別に生まれてくるのを感じ、体重をヒュミルに預けた。

 二人はそのまま繋がり合いながら、やがて眠りへと落ちていった。

 ヒュミルはまだ若い。
 だから、彼が一つの過ちを犯していることに、気づいていない。

 泣きたい時には、涙を流して泣く。
 涙こそが、精神を犯すどす黒いものを消し、積もって行く澱を洗い流す唯一の方法なのである。

 溜まっていくものがヘルの精神を満たし、それが未来において、時代の流れと関係しあった時にどのような結果を導くことになるのか。

 それは今の彼には……いやヘル本人にも、想像すら出来ていない。



07.
 夏が終わり、季節は秋に移る。
 ブラックナイトの襲撃も、フェンリルの捕縛も、少し前のことになりつつあったその日。

 ヘイムダルとテュールが巡回に出る予定なのだが、その見送りに、ユヅキや村長、村の子供たち、そしてフレイアの両親が来ていた。

 今回、巡回に出るのはヘイムダルたちだけではない。

 小さな身体に大きすぎるリュックを背負ったフレイアが、見送られる側に立っていた。
 腕を動かしにくくなったテュールのサポートとしてフレイアが同行する、その最初の日だったのである。

 居並ぶ大人たちの中で、最も不安そうな顔をしているのは、他ならぬヘイムダルだった。
 常設浴場の設計を通じ親しくなったフレイアの父ニュルズと、その妻のスカジに、ヘイムダルは最後の確認をした。
「本当にいいんだな?」
「ああ。ドスジャギィに襲われたあの日以来、フレイアはハンターになりたいと言っているし、そうであれば早いうちから経験を積ませたい」
 ニュルズが答える。
「挫折するにしても、その仕事の過酷さをちゃんと実感してからにしてほしいのです」
 大柄なスカジも、そう言った。
 それを聞き、ヘイムダルは大きく一つため息を付くと、しかしそれで迷いも不安も振り切り、指揮官としての精神を取り戻す。

 軍隊時代の曹長の顔をして、ヘイムダルはフレイアに対して言った。
「いいか、俺は仕事には厳しい。子供であっても正当にその能力を評価するが、邪魔になると判断した場合は、テュールに即座に村まで送り届けてもらう。そしてそうなれば、二度とお前を連れて行くことはない」
 脅しをかけるヘイムダルに対し、フレイアは真剣な顔をして、
「サー! イエス! サー!」
 と返し、敬礼をした。
 十一匹のアイルー達が指導を施した、それは見事な敬礼だった。

 すぐに泣き言を言い出して帰るだろう。
 そう思っていたヘイムダルの思惑は、その後、大いに外れることになる。

 この日、最初の任務を果たしたフレイアが、長ずるに連れて助手として重要な存在になっていくとは、ヘイムダルはまったく予想していない。

 さらに。
 やがて彼女が若きハンターとして独り立ちするなど完全に想像の範囲外。

 ましてや。
 十数年後、フリーのハンターとして外で経験を積んで、相棒まで連れて村に戻ってきたフレイアに自分の後を引き継がせることになるなど、今のヘイムダルに言っても、あり得ん、と、一笑に付されることであろう。

 ヘイムダル達の上にも。
 ギルドナイト達の上にも。

 時は、誰にも想像のできない形で流れていくのである。
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category: モンハン小説

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コメント

お帰りなさい!

Twitterから飛んで来た時、デジャヴかと。w
今度は失踪しないで下さいね?

週末の笛吹きもひと段落、って感じですね。
次の話は何年後かに飛んでいそうな感じ。

そして噛ませ犬だった若いハンターさん。
自称ヘタレの大剣使いって・・・何処かで聞いたような・・・。w
前の話になるけど、ヒュミルもモスが可愛いって・・・。


それにしても。
獰猛ジョー狩りに乱入してきたのは予想外でした。
まぁ好都合・・・ちょっと利用させてもらいました。すみません!
自分は一脚先にまともな獰猛ジョー狩りに戻らせて頂きます。
確定行動とか分かると良いなぁ。
・・・分かっても身体で覚えないと駄目なんだよなぁ・・・。

yuki #Z0eBfVjg | URL | 2016/12/11 15:18 | edit

こんばんわー。
なんかすごくいいまとめだったけど、もしかしてこのお話終わっちゃうのですかね?
フレイア編も好きですが、ヘイムダル編のなんかすごい地付きのハンター感がたまらなく好きなんですがどーなんですか?

追伸
自分も雄だと思ってたっす。ヤラレタw

朔 #- | URL | 2016/12/11 20:05 | edit

Re: お帰りなさい!

>>yukiさん

いつもありがとうございます。

モス卿とけんゆうさんは後付け設定ですが、自分としては結構いい後付になったんじゃないかと思っています。

オフレコですが、十年くらい後にヘルの心から黒い檻が溢れちゃって、そりゃもう大変なことになり、一時的に二人は離れてしまいます。それがちょうどフレイアとウルズが出会った(う)くらいの頃。

モス卿が二人に声をかけたのは、なんか可愛い娘たちがいるなぁ、ちょっと粉かけてみようかなと思っただけで、特に深い意味はなく。もちろんヘイムダルさんの関係者だなんて考えていません。

更に後に、二人は元サヤに収まるのですが、その頃起こっていた炭鉱夫組合とハンダーギルドの戦争のような労使交渉の中で、闇落ちしたヘルが暗躍して犠牲者がいっぱい。さてさてどうなることやら(他人事)。

けんゆうさんの話とリッカ・ぼたんコンビ(+要所でカザハナ嬢)の話も少し考えたりしています。

そして。
獰猛ジョーに関しては、ちょっとした出来心でつついたら、「スーパーくいしん坊」のステーキみたいな話になってしまいました(途中から乗ってたけど)。
しかし、今のところ火力的な意味で獰猛ジョーに笛で勝てる未来が見えてこない……。すこし考えがあるので、近いうちに記事にします。
……というか、早いうちにクリアしないと、25日締め切りの「オリキャラ祭り」用の絵本動画作成に支障が……。

ロキ #- | URL | 2016/12/12 10:35 | edit

Re: タイトルなし

>>朔さん

読んで頂きありがとうございます。

yukiさんもそうでしたが、ご推察の通りヘイムダルさんの話はこれで一段落。
この第六話が、モンハン小説の中でも古くから考えていた最大の山場でした。

しかし、ヘイムダル編は「もうちっとだけ」続きます。

あとは、現状に不満があるわけではないんだけど心の奥底にある向上心との間で葛藤するユヅキと、家族同然だった部下や副官を亡くした心の傷が癒やされていないヘイムダルさん、そしてそこに関わっていく村長の話。

ガルガリの滝の森の日常がヘイムダルさんの心の傷を少し癒やし、ユヅキのためにちょっと頑張ろうかと前向きな事を考えられるようになる話で、とりあえずモンハン小説ヘイムダル編の終わりになります。

そして。

あと、番外編として「こやし玉の女神」「11匹のアイルー達の日常」のような単発、あるいは短編集的なタイトルも考えていたりします。
テュールの性別をやっと明かせたので、ロキがフレイアに付いていった理由とか、ヘイムダル編よりちょっとだけ未来の話(フレイアが鬼教官ヘイムダルのもとで泣きながら修行中くらいの頃)の話とかを書いていけるようになりました。

ちなみに。

もしも誰か一人にでも、ここに来る前に「テュールって女の子だよね?」なんて言われていたら、自分は筆を折っていたかもしれませんww

あそこまで読んでくださった方に「な……なんだってー!」となってもらうのがモンハン小説の目標でしたので。

だからこそ。
最初から今までテュールに関しては「彼」とか「彼女」とかの表記をせず(何処かで一回だけ何か仕掛けた気がするけど、自分でも忘れてしまった)、ヒュミルにも「あのコ」と呼ばせていたのです。
……ネタバレを恐れたあまり、テュールの日常的なことを書くことが出来ず、読んでもらっている人の思い入れを集めることができなかったかも……とも思っていますが、そのあたりは自分の実力不足です。

ロキ #- | URL | 2016/12/12 10:49 | edit

お疲れ様でした♪

ヘイムダル編一段落したみたいですね♪



本当にお疲れ様でした(^^ゞ



腕は立つのにヘタレと自虐するハンター・・・



とこぞにモデルでもいるのだろうか・・・



少なくとも世界で唯一のヘタレ認定を受けている自分ではないかな(笑)



次回作も楽しみに待っていますよ~ヾ(^▽^)ノ

けんゆう #028lExxE | URL | 2016/12/12 15:18 | edit

Re: お疲れ様でした♪

>>けんゆうさん

本当はもっと速くここまで書こうと思っていたのですが、他のやることに浮気して随分と遅れてしまいました。
しかし、本当にこれで一段落。

ヘイムダル編ももうちっとだけ続きますが、とりあえず次の連載はまだ未定……ということでお願いします。

さてさて。
腕は経つのにヘタレと自虐する大剣ハンター。
一体誰がモデルなんでしょうね?
一応、世界観に合わせた名前になるとは思いますが。

次の出番もちょっと考えてあったりします。お楽しみに!!

ロキ #- | URL | 2016/12/13 07:52 | edit

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